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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)31号 判決

被告人

藤井朝廣

主文

原判決中被告人に関する部分を破棄する。

被告人を懲役三年に処する。

但し本裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する原審における訴訟費用は被告人と原審共同被告人小谷隆の連帶負担とする。

理由

弁護人吉永嘉吉の控訴趣意は末尾に添付の別紙記載のとおりである。

同控訴趣意について、

原判決が認定した事実は、その判示明瞭を欠くの嫌がないではないが、これを、その挙示した証拠と対照すると、結局、被告人は原判示の日時、原審共同被告人小谷隆と共に原判示場所を通行中折柄飮酒銘酊して殆んど正常の意識を失い心神耗弱の状態になつている田增關一(当時五十六歳)が通りかゝるのを認め両名共謀して同人を人里離れた判示場所に連行した上その着衣をはぎ取ろうと企て、直ちに判示の方法で同人を判示場所に連行中來合せた光島明に対し被告人において右田增からその着衣をはぎ取ろうとしていることを告げ光島もこれに同意し、こゝに三名共謀して田增を判示場所に連行した上、同人からその着用していたオーバ及び背廣服上着各一着を奪取したものである。

というに帰するのである。尤も原判決は被告人及び原審共同被告人小谷並びに右光島等において、右田增に暴行を加え右着衣をはぎとろうと共謀し、同人を判示場所に連行した上暴行を加えて右の物品をはぎとりと判示し、又その末尾に強盜の目的を遂げた旨判示しているけれども、そもそも、強盜罪の構成要件である暴行は被害者の反抗を抑圧するに足るものでなければならないことはいうを俟たないところ、原判決挙示の証拠その他本件記録に徴するも、原判示の暴行は、被害者田增を判示のように連行したり、又その着衣を奪取した情況を表示したものであることが明かであるのみならず、更に強取の目的を遂げたというのは法律適用の前提としての單なる意見を附加したものに過ぎないことは、原判示事実とその挙示した証拠を対照するときは容易に、これをうかがい知ることができる。

すると、原判示事実は正しく刑法第二百四十八條所定の犯罪を構成するものといわなければならない。尤も同法條には人の心神耗弱に乘じて、その財物を交付せしめとあるので、原判示のように財物を奪取した場合の如きは、これに包含しない観がないではないけれども、刑法第二百四十八條は正常でない意思状態にある被害者の同意を利用して財物を領得する行爲を処罰の対照とするものであること極めて明瞭であるから、その領得行爲の形式が被害者において自ら財物を交付した場合は勿論、被害者の心神耗弱の状況にあるのに乗じ財物を奪取したような場合においても亦同罪が成立するものと解するのが相当である。すると原判決が原判示事実を刑法第二百三十六條第一項に問擬したのは正しく法令の適用を誤つた違法を敢てしたもので、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明かであるから、原判決は刑事訴訟法第三百九十七條に依り破棄を免れない。この点の論旨は理由がある。

尤も本件起訴状には、ほゞ原判示事実と同趣旨の事実を訴因として表示し、その末尾に強取の目的を遂げた旨附加し、且罰條として刑法第二百三十六條第一項を摘示しているけれども、当裁判所が前示のとおり説示した原判示事実は、右訴因と同一性があり、同訴因中に包含されているものと認められるし、又罰條の摘示は、もとより起訴状の構成部分を成すものでないのみならず、單に裁判所の判断に対する一應の参考となるに過ぎないものと解するのが相当であるから、右の訴因及び罰條は、檢察官においてあながちこれが変更を要するものでない。

そして当裁判所は本件記録及び原裁判所において、取調べた証拠によつて、直ちに判決をすることができるものと認められるので弁護人の量刑に関する論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第四百條但書に從い更に判決をすることとする。

よつて原判決が挙示した証拠によつて認定した当裁判所が説示した前掲事実は刑法第二百四十八條第六十條に該当するので定められた刑期の範囲内で被告人を懲役三年に処し、なお、情状刑の執行を猶予するのが相当であると認められるので、刑法第二十五條を適用し、この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予し、又原審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一條第一項第百八十二條に則り被告人と原審共同被告人小谷隆をして連帶して負担させることゝする。

よつて主文のとおり判決する。

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